インスタレーション (2013)




■– 動く/嗅ぐ/認識する –
見かけは天井からグリッド状に約60個の小瓶がぶら下がっているだけの空間ですが、実際は「鼻で探検する」ために計算して作られた、匂いの空間です。小瓶の中の香料を紐が吸い上げ、ゆっくりと香りを空間に蒸散させます。紐までが20cmくらいであれば匂いがわかるように、濃度を調整してあります。それぞれの紐の間は、40~50cmくらい。その間をちょうど人ひとりが通り抜けられるような間隔です。通り抜けるときに、ふんわりと漂う香りが嗅げるはず。いわば小さな「匂いの迷路」です。
3種類ほどの香り(柚子、ローズウッド、セダーウッド)を用い、一つの香りを辿って進めるか・・・といった、遊び感覚、そして嗅覚テスト的な空間でもあります。香りと配列に関しては、最終形を追求するのでなく、常にクリティカルに実験を重ねていきます。つまり、新たな遊びを体験者の方々と共に生み出すためのプラットフォーム、と捉えています。
■テーマ
主役は、香りではなく、嗅覚体験です。
香りはすべて、もともとはニュートラルなものです。それを知覚し、脳の中でプロセスし、「これは好きだな/嫌いだなと」とか、「あのとき嗅いだ香りだな」などの判断を下すのは、当然のことながらみなさん自身。 たとえば私が「祖母の家の香り」といったところで、みなさんの頭の中に浮かぶおばあさんの家の香りは、それぞれ違いますよね。
つまり香りを意味づけするのは、個人の体験だったり歴史だったりするのです。なので、ここでは私からは香り自体に意味を与えません。むしろテーマは「ふだん使わないような嗅覚の使い方」です。
「あれ、私の嗅覚って、こんなことができるんだ」「匂いを嗅ぐのって、こんなに疲れるのか!」といった発見を提供できれば嬉しい。さらに、通常忘れられている「嗅覚の空間指向性」、つまり人間も犬のようにクンクンして空間をナビゲートできるということを、体感してもらいたい。
現代社会では、そんなことをしたり、匂いについて公言する事は、マナー違反とされています。ここではそんなタブーを破り、皆さんの体験を好きなだけシェアしてください。
私はここ数年、「動き」と「嗅覚体験」をキーワードに、嗅覚の空間指向性を様々な方法で探っています。自分から動くことで知覚し、発見することの歓びは、そこに鎮座しているものを受動的に鑑賞するのとは全く違います。嗅覚のための迷路は、数年前から作ってみたいと思っていました。
香りの微細なグラデーションさえ感じ取れるような、空間の解像度を上げる努力を細部に施しました。香料もその観点から選びました。信頼を寄せる山本香料株式会社さんより、彼らの得意とする天然系の香料を提供していただいてます。
展示空間においては極力、視覚的・聴覚的要素や、説明的なテキストを排除しています。香り自身がみなさんの深い身体感覚に語りかけ、イメージを生み、音を奏でる。香りにはそのようなパワーがあると信じています。
Maki UEDA
香料提供:
山本香料株式会社
Yamamoto Perfumery Co., Ltd.
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[プレミア発表] アツコバルー arts drinks talk(東京・渋谷), 2013.09.11. シェアリング・バイブス|共振する場、そして私」展
[日時] 2013年9月11日(水)~29日(日)
[場所] 〒150-0046 東京都渋谷区松濤1-29-1 クロスロードビル5F tel:03-6427-8048 mail:ab@l-amusee.com
http://www.atsukobarouh.com/
[アーティスト] Maki UEDA/新津保建秀/山川冬樹
[キュレーター] 四方幸子
[ワークショップ]
「犬のように空間を探る~嗅覚と空間認識~」vol.2」
人間の鼻には意味なくふたつの穴があるわけではありません。右に左に移動しながらクンクンすると、意外に空間内の「匂いのモト」を探知することができるんです。このWSではこのような「嗅覚のステレオ体験」をしていただきます。
09.21. (土)17:00~19:00
[キュレーター・ノート]
光、匂い、音‥見えないものや知覚しにくいものも含め、空間にはさまざまな情報が溢れています。アツコバルーの空間を開かれたエネルギーの交差点と見なすこの展覧会では、空気を媒介するものや繊細な現象をとらえた各作品が相互に関係することで生まれる新たな胎動(バイブ)を、自らその一部として体感いただくことになるでしょう。 Maki UEDA、新津保建秀、山川冬樹というユニークな顔ぶれがアツコバルーで交差します。(Yukiko SHIKATA, Curator)