五感のための昼食会

日時: 2010年8月

場所:テラス高輪

主催:NPO法人 ニューロクリアティブ研究会

コンセプト: MAKI UEDA

調理:テラス高輪(フレンチ・レストラン)

チェロ:PIRAMI

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前菜:「匂いの品」ファン・デル・ヘイデ家の台所

古き良き時代のオランダの家庭は

どんな匂いがするのでしょうか

私の義母のキッチンへタイム・トリップ

 

スープを蒸留して香りのみを抽出した「スープの香水」と匂い紙をみなさんに渡します。スープを煮る時に蓋を開けっ放しにした らどうなるかなどの話題と、スープと香水の共通点(トップノート/ミドルノート/ベースノート) などを5分くらいお話します。

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スープレシピ:「ファン・デル・ヘイデ家の台所」
材料
・リーキ(西洋ネギ)
・じゃがいも
・野菜ブイヨン
・生クリーム
・塩こしょう
・チャイブ
リーキを輪切りにし、10分水に漬ける。リーキとじゃがいもをブイヨンで45分煮る。塩胡椒し、皿に盛って生クリームをかけ、チャイブを散らす。*フランスでは、「ヴィシソワーズ・スープ」という名で知られているようです。

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話題:ファン・デル・ヘイデ家の台所
私のオランダの義母は戦前の生まれで、彼女の台所を通して古き良き時代のオランダを垣間見る事が できます。私たちが遊びに行くと必ず待ち受けてくれている、美味しそうな台所の匂い・・・。彼女はよくリーキを使ったスープを作ってくれます。息子が3歳くらいの時、極端な野菜嫌いだったので すが、このスープだけは喜んで食していましたので、私たちはリーキのスープを「Oma Soep (= Grandma’s Soup)」と呼ぶようになりました。匂いが記憶と感情と強く結びついているということ、 そして匂いは私たちに時間と空間を超えた体験をもたらしてくれること、などについてお話します。

 

主菜: 「目隠しの品」

鼻であじわうことと口であじわうことの

境界線はどこにあるのでしょうか

 

配膳が終わってからまず、みなさんにお料理の匂いを嗅いでいただきます。その後、各プレートの ローズ・バスにお湯が注がれます。ローズとお料理の全体的な芳香を堪能してから、目隠しを外し、 フォークとナイフでいただきます。

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ここでの主役は肉や魚ではなく、ローズの花びらです。 ローズ・バスにお湯がかけられると、ローズの香りが立ち上ります。ここではチキンは脇役。あたか もローズを鼻で味わうかのように、料理をいただきます。

味付けに使われる素材は、次の図に載っているもののみです。

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この図からは、ローズに含まれる上位 10 位までの香気成分が一目でわかります。ある研究チームがあらゆる素材を分析し、共通する香気成分が見られたもの同士を線で結んだものです。 ローズの成分のひとつは、シャルドネなどの白ワイン・グループ(ローズから見て 0 時の方向)にも共通するため、そのグループと線でつながれています。また別な成分が、ボイルドチキンやベークド鴨肉(ローズから見て7時の方向)にも共通の成分であることが、線を辿るとわかります。この図にある全ての素材と相性が良いのが、ローズというわけです。

この「フード・ペアリング(http://www.foodpairing.be)」という考え方は、ヨーロッパ発の新しいグルメ・トレンドである、モレキュラー・ガストロノミー(分子の調理法)でも主流となっています。 

参考までに、試作では次のように作りました。

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• 鶏もも肉 180g
• 紅茶ティーバッグ 1 袋
• シャルドネ 150ml
• グリーンアスパラ 3本
• ラスベリー果汁
• ブルーチーズ(細かく切る)
• バジル(デコレーション用)
• ローズ 小さめの場合3本
鶏もも肉に塩こしょうをし、30 分なじませておく。ジップロックなど密閉できるような袋に鶏もも肉、紅茶ティーバッグ、シャルドネ、アスパラを入れ、sous-vide (真空調理法)で調理する。(専門書によると、鶏肉 180g の場合、推奨温度は 65 度、推奨時間は 20 分。)その間、ラズベリー果汁とブルーチーズを弱火にかけてソースを作る。sous-vide が終わったら、鶏肉を切ってアスパラと一 緒にお皿に盛り、バジルを盛り、ソースをかける。これをバラの花びらを散らしたお皿の真ん中に置き、配膳してから、ローズ・バスにお湯をかける。

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話題:料理とサイエンス

卵の黄身とお酢を混ぜながら、オイルを少しずつ加えていくと、マヨネーズができます。仲の悪い水性のお酢と油性のオイルを、卵の黄身が仲介するわけです。この化学現象を乳化といいますが、この ような台所のサイエンスがヨーロッパではよく発達しています。

考えるに、オーブン文化がその要因かと思うのです。ヨーロッパの家庭では昔、オーブンとガス台と 暖炉が一体となったものが使われていましたので、その影響でしょうか。オーブン料理は特に、配合をきっちりと守らなければ失敗してしまう、料理のサイエンスです。同じ材料を使っていても、配合次第でクッキーになったりケーキになったりします。

そのためか、化学の視点から調理を再検討しようとする動きが 80 年代あたりからありました。90 年 代には、フランスの化学者エルベ・ティスが「モレキュラー・ガストロノミー」という題の論文を発表し、この言葉がガストロノミー界に定着しました。モレキュラーは分子を意味しますから、「分子の調理法」とでも訳したらよいのでしょうか。

 

デザート:「目隠し+耳隠しの一品」

色・かたちは無いが、「にほい」はある

音は無いが、けれどもある

体内の内側に向かう感覚を楽しむ一品

 

参加者の方には耳栓と目隠しをつけていただきます。

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桃のゼリー

スモークドアイス

ポップロック・キャンディ

 

MENU

 配布資料1 配布資料2 配布資料3 配布資料4 配布資料5 

PRODUCTION NOTES

当日の流れ

白い闇

ヨコミゾマコト (建築家) x MAKI UEDA (嗅覚のアーティスト)のコラボレーション

パヴィリオン/空間インスタレーション (2013)

 

「白い闇、と聞いてそんなのあるのかな? と思ったけれど、体験してみたらそれはまさに白い闇—そうとしか表現しようのない、あまりにも不思議な空間だった。

壁にぽっかりと開いた丸い穴。その穴をくぐり抜けて薄暗い空洞の中に降り立つと、ふいに視覚は役に立たなくなる。何しろ、とりとめがなく、みどころのない白しか見えないのだ。」(体験者談)

 

東京赤坂ニューオータニ・ガーデンコートのオカムラ・ショールームの一角にあるOKAMURA Design Space Rでは、年に1度、新々建築家とアーティストが斬新なコラボレーションを行います。2013年は、「形によって空間と時間をデザインする建築家」ヨコミゾマコトと、「形がないもので空間と時間をデザインする嗅覚のアーティスト」MAKI UEDAとのコラボレーション。非日常的な建築的空間が創出されました。

 

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設計図2 

にじり口を入ると、実際に霧がかっているような空間がそこに広がっている。薄明るい暗闇である。視覚は役に立たない。呼吸が落ち着くような爽やかな香りが広がっている。匂いを嗅ぎつつ、手探りしながら、じぶんの足音を聞きながらソロソロと歩いていく。 次第に、暗闇に目が慣れてくるのか、なんとなく奥の方が見えてくる。しかし、壁は相変わらず見えない。そのため、エンドレスの空間に感じられる。

手探りで壁を確認し、伝って歩くと、次第に香りも変化する。空間が広がるようなスペーシーな香り。そして、包まれるような懐かしい香りへと展開していく。

たとえば吹雪の中、あるいは濃霧の中で、方向感覚や遠近感を失う。その現象をホワイトアウトというが、それに似た体験を得られる空間である。

 

「白い闇」に向けて

ヨコミゾマコト

この展覧会では、私が憧憬する無限に広がる境界のない空間をつくってみたいと考えています。そもそも有限なこの地球上に、無限に広がる空間をつくり出すなど土台無理な話です。しかし、物理的には不可能でも、人の持つ感性と想像力に頼れば可能かもしれません。そこで、嗅覚のアーティスト MAKI UEDA さんに参加して頂くことにしました。形によって空間と時間をデザインする建築家と、形がないもので空間と時間をデザインする嗅覚のアーティストとのコラ ボレーションです。

想定されるのは、白いだけのまったく何もない空間です。しかしそこは、とても静かで豊かな空間です。嗅覚と聴覚が研ぎすまされます。 視覚は役に立たないからです。匂いは日常に溢れているものながら、 未解明の部分が多いようです。嗅覚は、視覚や聴覚に比べて、原始 的かつ直感的であり、記憶に直結しているとも言われています。その嗅覚に刺激を与えることで、人のもつ無限の感性と想像力を活性化させたいと考えています。

www.aatplus.com

 

インスタレーションを楽しんでいただくために

MAKI UEDA

みずからを匂いに委ね、嗅覚を頼りに空間を歩いてみてください。匂いが空間をナビゲートしてくれます。普段は主に視覚が使われます が、この空間では嗅覚が主役です。

独りで入っている時は、目をつむり、手探りしてもよいでしょう。つまずくモノもありません。たとえば犬のように、四つん這いになって右に左にクンクンするのはどうでしょう。

この空間には、三つの匂いを使って、目には見えない「立体画」を描きました。あたかもRGB(赤緑青)の三原色がモニター上で鮮やか な映像を映し出すかのように。この空間は、匂いの色彩で満たされています。どことして同じ色は存在しません。

香り自体に意味はありません。そこに意味づけを与えるのは、みなさんの経験や体験です。香りはすべて、ニュートラル。主役は、みなさんの「嗅覚の可能性」です。

www.ueda.nl

 

全体企画: OKAMURA Design Space R企画実行委員会

委員長:   川向  正人 (建築史家、建築評論家、東京理科大学教授)

企画委員: 芦原  太郎 (建築家)北川原  温 (建築家、東京芸術大学教授)内藤 廣  (建築家)中村 喜久男(岡村製作所 代表取締役会長)

実行委員: 岩下 博樹、萩原 圭一、鈴木 勇二、中村 留理、竹森 邦彦 (岡村製作所)

開催場所:    オカムラ ガーデンコートショールーム内 〒102-0094 東京都千代田区紀尾井町4-1 ニューオータニ・ガーデンコート3F  Tel: 03-5276-2001

主催:     株式会社岡村製作所  〒107-0052 東京都港区赤坂2-14-27  国際新赤坂ビル東館10F  Tel: 03-5561-4091

香料協力:      山本香料株式会社

 

制作過程: (ブログへのリンク)

http://witch-lab.blogspot.jp/search/label/%5B白い闇%5D

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五感のための晩餐会

– レストラン形式でのフードアート・ワークショップ –


ワークショップ/イベント (2009)

 

 

是故空中 無色無受想行識

無眼耳鼻舌身意 無色声香味触法

 

– 般若心経 –

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2009 年 9 月 27 日、 オランダ・ロッテルダムのあるシアターの食堂を借りて「五感のための晩餐会 」が開催されました。

私たちはふだん、何気なくご飯を頂いていますが、匂いを嗅いでは食欲をそそられ、料理の盛りつけ を見ては感嘆し、コリコリした食感に唸るなど、全五感をフル回転させて「味わう」ことを体験して います。食べるということは、味覚だけでなく、五感(あるいはもっと多くの感覚)で楽しむ行為な のです。

「五感のための晩餐会」は、ワークショップであり、フード・アートでもありつつ、その場がレスト ランでもあります。ひとつひとつの料理に添えられるのは、目隠しや耳栓など、感覚を消したり強調 したりするための小物。これで五感のどれかを鈍くしたり鋭くしたりして、「味わう」という行為を 再認識してもらいます。このディナーを通して、未知の感性や感覚を発見できるかもしれません。

日本関係のフェスエィバルの一環として開催されたので、メニューは和食で構成されました。

 

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photos: Moritz Bernoully

 


お食事:

お通し
音無し、あるいは音煩わし。体内感覚で楽しむ品々。
耳栓着用
  • 青海苔せんべい
  • もろきゅう
  • 揚げそうめん
  • わかめサラダ
  • そばかりんとう
  • 枝豆
  • 麹漬け(上田家秘伝)
  • ミックスナッツ

 

前菜

 

味と匂いの実験のための品々

 

1. まずは味噌汁を蒸留して作られた「MISO SOUP PERFUME」を、拭香紙を使って匂いを嗅いでください (あるいは口に吹きかけてください)。

匂いの特徴が時間の経過で変化するのを追ってください。
  • トップ・ノート(ネギ)
  • ミドル・ノート (椎茸/昆布だし)
  • ラスト・ノート (味噌)

 

MISO SOUP PERFUME は、味噌汁を蒸留して作られた香水。

透明ですが、フレーバーは味噌汁そのもの。

 

2. ほんものの味噌汁を味わってください。

 

主菜

 

目隠着用

全く同じディッシュが2回サーブされます。

 

 

1回目:

 

  • 目隠着用
  • 手づかみで

 

 

2回目:

 

  • 目隠は外す
  • 箸を使って

 

色無し、形無し、けれども花づくし。 触覚的、感覚的。 (糸こんにゃく、カボチャの煮物、桜のおにぎり、等)

 

 

デザート

 

ビックリ・アイス

目隠・耳栓着用

 

スペシャル・ドリンク

グリーン・ティー + オレンジ・ジュース・スプレー

 

オレンジ・ジュース・スプレーを口に吹きかけ、それから緑茶を口に含ませます。

“ふたつの食品の主要成分に共通するものがあった時に、それらはうまく組み合わさる。”

: モレキュラー・ガストロノミーの共通認識としてのコンセプトに基づいた組み合わせです。

(www.foodpairing.be)

 

 

 

インスピレーション

このワークショップの最初のインスピレーションとなったのは、ブリュッセル・ ベースのアーティスト・コレクティブである FoAMの活動でした。マヤ・クズマ ノビッチが企画した刺激的なイベントのひとつに、2008年11月の Open Sauces という晩餐会がありました。食の未来に関して多角的に検討するための企画で、 そのトピックは分子ガストロノミー、食と感覚器官(上田もこのトピックに寄 せて作品を提供)、食の流通や食糧危機問題、食の安全など、多岐に渡るものでした。

 


メーキング

ブログ魔女の実験室 [五感のための晩餐会]を参照してください。

 

クレジット

special thanks to : カメラ・ジャパン・フェスティバル

コンセプト & 制作 : 上田麻希

料理 : 上田のり子、上田麻希

サービス : 遠藤みさ枝+マリア、稲村朋子