匂う森

〜 化学シグナルによる種を越えた参加型嗅覚バイオーム 〜

Olfactory Biome は、嗅覚によって構造化された生態系を探る、サイトスペシフィックな環境インスタレーションである。熱帯植物の温室内において、異なる種を引き寄せたり、遠ざけたり、混乱させたりする香りのシグナルによって形成される、目に見えないバイオームを体験化する。

体験は、夜の森を歩く感覚を想起させる。空間はほぼ完全な暗闇に保たれ、温室には月明かりが差し込む。視覚が頼りにならなくなるにつれ、知覚は身体を通して再編成される。意識はあらゆる方向へと広がり、嗅覚が活性化される。足の裏や耳が、まるで目のように機能しはじめる。ホタルを思わせる小さな点滅する光が、最小限の方向感覚を与える。

空間に入る前に、参加者は蛾・コウモリ・人間のいずれかの役割を選び、引き寄せたり忌避させたりする香水を調香する。それを身体にまとい、移動するシグナルの発信源となる。あらかじめ空間に設置された香りはミストやフォグといった粒子に乗って漂い、ときに見え、ときに見えないかたちで参加者を誘い、惑わせる。

自然の生態系において、生物は絶えず化学的シグナルを交換している。花は揮発性化合物を放出して花粉媒介者を引き寄せ、蛾やコウモリなどの動物はフェロモンや餌の匂いに反応する。また植物は損傷を受けると警告シグナルを放出する。こうした目に見えないやり取りは、生態学的コミュニケーションの大気的な層を形成している。

本インスタレーションは、あらゆる年齢の観客を、こうした化学シグナルの大気的なフィールドへと積極的に参加させることを試みる。さらに音響環境は、蛾が捕食を避けるために超音波のクリック音を発してコウモリのエコーロケーションを妨害するかのように、反響の変化を通して観客が互いの動きを感知できるよう設計されている。

視聴覚的なスペクタクルによって圧倒するのではなく、Olfactory Biome は内的な感覚への没入を促す。嗅覚を前面化することで、本作は嗅覚による環境知を探求し、変化する生態環境を感知し適応するための「嗅覚知」および「嗅覚的レジリエンス」を提案する。


Resource:

CCBT イベントページ:
https://renewal.ccbt.rekibun.or.jp/ja/events/biome-of-scent

観覧の手引き (Google Doc):
https://docs.google.com/document/d/10yL7i4G4LHS-x38ShiQxH6deM1U6XKuIrovRcDTW9xA/edit?usp=sharing